コンピュータサイエンス
プログラムの処理単位
~async/awaitについての技術的構造と実行モデル~

async/await 技術レポート 目次
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第1章 はじめに
1.1 本レポートの目的
本レポートは、現代の非同期処理の主要な言語構文である async/await について、その技術的構造と実行モデルを解説することを目的とする。
Promise に基づく async/await は、直感的には同期的に見える記法で非同期処理を記述できる為、ユーザの読みやすさや設計の合理性を大きく向上させる。ただし、その内部構造や実行方式は見かけの簡易さに相反して複雑な際もあり、理解するには Promise やイベントループの動作の深い理解が求められる。
本論文は、async/await を博覧でなく、其の背後にある実行機構を詳細に解析することによって、非同期処理モデルの学術的理解を目指す。
1.2 非同期処理の背景と課題
現代のソフトウェアは、I/O 操作を多数並列に含む应用が増大しており、同期処理のようなブロッキングモデルではスループットや応答性を確保することが困難になりつつある。
そこで非同期処理が求められるが、通俗的なコールバック構文は、コードの形式を解析しにくくし、デバッグも困難になりやすい。Promise はこの問題に答えるための抽象化モデルであるが、記述は後續性が高く、またチェーン結合が分かりづらいという課題がある。
1.3 async/await の注目点
async/await は、Promise の上に成立しており、非同期処理を同期的な文脈で記述できるようにする構文レベルの抽象である。
await によって Promise の結果を待機し、結果を受け取る文脈で続行処理を記述できるため、表現的には普通の同期関数のように描くことができる。
ただし async/await の実行は、内部では Promise のチェーン構造やイベントキューとの連携を含んでおり、その実装は「コルーチン的」であり、またローカル変数などの維持は「クロージャ的」な要素を含む。これらは大学初心者にとってもモデルとして理解する価値が高い。
第2章 Promiseの基本構造
2.1 Promise の定義と意図
Promise は、非同期処理の結果を表現するための言語構造であり、将来的に値が得られるという「約束(promise)」を抽象化するものである。同期的な戻り値ではなく、非同期的な完了を表現するため、イベント駆動型のプログラミングモデルにおいて重要な役割を果たす。
Promise の目的は、非同期処理における状態管理と制御の抽象化にある。従来のコールバック関数による非同期処理は、入れ子構造の肥大化やエラーハンドリングの煩雑化といった問題があり、それを解消する手段として導入された。
2.2 成功・失敗の2段階モデル
Promise は “pending(未完了)”、”fulfilled(成功)”、”rejected(失敗)” の3つの状態を持つ状態遷移モデルに従って動作する。生成時は必ず pending 状態にあり、非同期処理の完了によって fulfilled または rejected に一度だけ遷移する。
このとき、それぞれの状態に応じたコールバック関数(resolve もしくは reject)が呼び出される。これにより、非同期処理の成功・失敗を一貫して扱うことができる。Promise は状態が確定した後は不変であり、この性質によって予測可能な非同期制御が可能となる。
2.3 Promiseチェーンと状態遷移
Promise の特徴の一つはチェーン可能性である。then メソッドによって、非同期処理の結果に基づいた後続処理を記述することができる。各 then は新たな Promise を返し、それによって非同期処理の連鎖(チェーン)が構築される。
このチェーン構造では、前の Promise が解決された後に次の関数が実行され、その結果が次の Promise に反映される。これにより、複雑な処理を逐次的かつ明示的に記述できる。チェーン内で例外が発生した場合も、catch によって一元的にエラー処理が可能であるため、エラーハンドリングの構造も整理される。
Promise のこの構造は、非同期処理の状態を明確にモデル化し、分かりやすくかつ堅牢な非同期コードの記述を実現するための基盤となっている。
第3章 async/await の導入目的
3.1 可読性と制御構造の改善
async/await 構文は、非同期処理の記述を直感的かつ構造的に記述するために導入された。特に、非同期処理の流れを、同期的なコードと同様の文脈で表現できることは、可読性の大幅な向上につながる。
await を使用することで、非同期の完了を待ってから次の処理に進むという明確な制御フローが得られる。この制御構造は、従来のコールバックや then チェーンに比べて視覚的にも論理的にも明快であり、関数内のロジックを素直に読み解ける形式を提供する。
3.2 コールバック地獄の解消
Promise 導入以前の非同期処理は、ネストされたコールバック関数が多重に連なった「コールバック地獄(callback hell)」と呼ばれる構造を生み出していた。この構造は、保守性の低下、バグの温床、ロジックの見通しの悪化を招いていた。
async/await の導入により、非同期処理のフローがフラットな形式で記述可能となり、コードの入れ子構造を大幅に削減できる。これにより、非同期処理におけるロジックの見通しやすさ、テストのしやすさ、再利用性が大きく向上する。
3.3 エラーハンドリングとの統一
従来の Promise によるエラー処理は catch を使用したが、then チェーン内で複数の非同期処理が存在する場合、エラー伝播の範囲や文脈が分かりづらくなることがあった。
async/await は、同期処理と同様に try-catch 構文によって例外処理を行うことができるため、非同期処理と例外処理の統一が実現される。これにより、例外発生箇所と処理対象の関連が明確になり、例外ハンドリングの設計がより直感的で堅牢なものとなる。
第4章 実行時構造:中断・再開・チェーン
4.1 await による実行の一時停止
await は、非同期処理を中断し、Promise の解決を待ってから処理を再開する構文である。async 関数内で await が評価されると、その時点での実行コンテキストは一時的に停止され、対象の Promise が fulfilled または rejected になるまで待機状態に入る。
この間、JavaScript や Python のランタイムは、関数のスタックや変数のスコープ情報を内部的に退避しておき、メインスレッドをブロックすることなく他のタスクを継続して処理できるようにする。この構造によって、await はコルーチンに似た中断点として機能し、非同期プログラムを効率的かつ非ブロッキングに進行させる。
4.2 await 後の再開処理と then 登録
Promise の状態が決定すると、await によって中断されていた async 関数の処理は、続きの行から再開される。このとき、ランタイムは Promise の結果をコールバック関数の引数として受け渡し、関数の続きを非同期にスケジューリングする。
この「再開」は内部的には then メソッドと類似の構造で実現されており、await の背後では Promise.then によるコールバック登録が行われていると考えることができる。つまり、async 関数の本体は、await によって複数の分岐点を持つ状態マシンのように分割されており、各状態は Promise の完了によって非同期に進行する。
4.3 関数全体の Promise への解決
async 関数は、呼び出されると同時に Promise を返す。この Promise は、関数の最終的な終了結果と結びついており、関数内の処理が正常に return された場合は resolve され、例外が throw された場合は reject される。
await を含む処理が途中で中断されても、最終的に関数の完了まで追跡され、最終結果が Promise として返るため、呼び出し元では通常の Promise 同様に then や catch、もしくは await で処理の完了を待機することが可能である。
このようにして、async 関数は Promise ベースの非同期処理の記述を簡素化しつつ、制御フローとエラー処理の一貫性を保つ柔軟な非同期関数の構築を可能にしている。
第5章 クロージャと状態保持の関係
5.1 クロージャによる変数環境の保持
async 関数は、await によって一時中断された場合でも、それ以前に定義されたローカル変数やスコープ情報を保持し続ける必要がある。このため、ランタイムは関数の実行コンテキストを閉じ込めるクロージャの構造を用いて、変数の状態を持続させる。
クロージャは、関数が定義されたスコープの変数を、その関数が終了した後でも参照し続けることができる構造である。async 関数は await によって処理を分割するため、各分割単位が再開された際に以前のスコープ情報を正確に再利用できるよう、これらの変数をヒープ上に退避しクロージャで管理する必要がある。
5.2 中断中のスコープとヒープ管理
await による中断が発生すると、現在のスタックフレームの一部は破棄されるが、変数環境や再開ポイントに関する情報はヒープ領域に保存される。これはガーベジコレクションの対象となるオブジェクトとして管理され、await に続く処理のために必要な情報が残される。
この際、ランタイムは非表示の構造体やクロージャオブジェクトに、変数、現在の実行位置、例外ハンドリングの文脈などを格納しておく。この設計により、非同期的な文脈でも関数の局所状態が保持され、論理的な一貫性を持った再開が可能になる。
5.3 状態マシンとしての async 関数
多くの言語実装において、async 関数は await を境にステートマシンとして内部的に変換される。これは await ごとに処理の段階が分けられ、それぞれが特定の状態に対応するように設計されている。
実行時には、現在の状態に応じて次に実行すべきコードブロックが決定され、Promise が解決されるごとに状態が遷移していく。このような構造により、async 関数の制御フローは明示的に管理され、中断・再開が正確に実現される。
このステートマシン方式は、特に複雑な非同期処理を持つ関数において、制御の一貫性を保ち、再開点を正確に特定するのに適している。言語仕様の背後では、このような低レベルの実行モデルが async/await の高水準な記法を支えているのである。
第6章 イベントループとの連携
6.1 イベントループの基本原理
非同期処理を実現する基盤として、イベントループは極めて重要な役割を果たす。イベントループは、キューに蓄積されたタスクやイベントを順次処理することで、単一スレッドの実行環境においても並行性を実現する仕組みである。
JavaScript や Python の asyncio において、イベントループはプログラムの中核に位置し、非同期イベントの登録、待機、実行というサイクルを継続的に繰り返している。この機構により、I/O 完了などの非同期イベントが発生するたびに、対応するコールバックが遅延実行される。
6.2 タスクキューとマイクロタスク
イベントループには複数のキューが存在する。一般的に「タスクキュー(macrotask queue)」と「マイクロタスクキュー(microtask queue)」が区別され、これらは実行優先順位やタイミングの制御に用いられる。
マイクロタスクは、Promise の then や async/await の後続処理のように、イベントループの各サイクル内で即座に実行される。一方、タスクキューは setTimeout や I/O の完了通知など、より大局的な非同期イベントを管理する。
このような階層化により、イベントループは即時性と公平性を両立し、システム全体の応答性を維持しながら非同期処理を効率よく進行させる。
6.3 非同期再開処理のスケジューリング
async 関数における await の使用は、イベントループとの協調によって実現される。await によって中断された処理は、対象の Promise が解決されると、再開処理がマイクロタスクとしてスケジューリングされ、次のイベントループサイクルで実行される。
このようにして、非同期処理はメインスレッドをブロックすることなく進行し、複数の非同期タスクがイベントキューを通じてスムーズに制御される。スケジューラは非同期実行の順序性や整合性を保証し、async/await によるコードの一貫した動作を支えている。
この構造は、並行性の制御を単純化しつつ、従来のマルチスレッドによる複雑な競合問題を回避できる点で、現代の非同期プログラミングにおける中核的な技術要素となっている。
第7章 実装モデル:コルーチン+クロージャ+状態マシン
7.1 コルーチン的中断と復帰
async/await の実装モデルにおいて、コルーチンは重要な概念である。コルーチンとは、関数の実行を一時中断し、必要に応じて再開することができる制御構造であり、非同期処理における中断・再開の動作を支える。
await によって関数の処理が一時停止し、Promise の解決後に再開されるという構造は、まさにコルーチン的な挙動である。これにより、非同期処理が同期的に見える形で記述でき、制御フローの可視性と保守性が高まる。
7.2 クロージャ的変数保持
async 関数は await によって複数の実行段階に分割されるが、それぞれの段階で必要とされるローカル変数やスコープ情報は保持されなければならない。この機能は、クロージャによって実現されている。
クロージャは、関数のスコープを超えて変数への参照を保持する仕組みであり、await によって処理が一時停止した場合でも、変数の値や状態が失われずに次の処理へと引き継がれる。これにより、async 関数は途中で中断されても、状態を正しく保持したまま再開することが可能となる。
7.3 状態遷移の分割実行モデル
多くの言語では、async 関数をコンパイルする際に、関数本体を状態マシンとして変換する。これは、await を挿入点として各ステージを状態として定義し、それらを順に遷移させることで非同期処理全体を構成する方式である。
このモデルでは、await ごとに実行ポイントが分岐し、Promise の完了に応じて次のステートへと遷移する。状態マシンによる分割実行は、処理の一貫性を保ちつつ、非同期タスクを逐次的かつ明示的に制御できる利点を持つ。
これら三つの要素、すなわちコルーチン的中断機能、クロージャ的状態保持、状態マシンによる分割実行は、async/await の動作を実現する根幹であり、非同期処理の記述を高水準に抽象化するための技術的基盤となっている。
第8章 例と動作の流れ
8.1 複数の await を含む関数の例
async 関数において複数の await を連続して用いることで、非同期処理を逐次的に記述することが可能である。以下のような関数を考える:
async function example() {
const data1 = await fetchData1();
const data2 = await fetchData2(data1);
return process(data1, data2);
}
この例では、まず fetchData1 によってデータを取得し、その結果を用いて fetchData2 を呼び出している。これは非同期処理でありながら、同期処理のように直列的な構造で記述されており、処理の意図が明快である。
8.2 チェーン展開の内部挙動
上記のような await の連続は、内部的には Promise チェーンへと展開される。すなわち、ランタイムは async 関数を状態マシンに変換し、それぞれの await の位置で Promise.then を通じて次の処理を非同期的にスケジューリングしている。
このとき、各 await は次の処理をイベントキューに登録する役割を持ち、Promise が解決されるたびにその続きを実行する。したがって、複数の await を持つ関数は、実質的に段階的な Promise の連鎖構造となり、これが高レベルに隠蔽されている形である。
8.3 Promise 解決順と順序保証
async 関数における await は、Promise の完了順序に基づいて処理を進めるため、記述順序がそのまま実行順序となる。これは Promise.all や Promise.race のような並列処理とは対照的に、直列処理において順序保証が重要となる。
await は一つの Promise が解決されるまで次の処理に進まないため、各ステップでの状態や副作用が次の処理に確実に引き継がれる。この特性により、順次依存関係を持つ非同期処理が安全かつ明示的に記述可能となる。
このように、async/await を用いることで、非同期処理の連鎖が直感的に記述できる一方で、その背後には状態マシンとイベントループによる厳密な順序制御が存在することを理解する必要がある。
第9章 設計的意義と制約
9.1 抽象化による認知負荷の軽減
async/await は、非同期処理をより直感的で扱いやすい構文として提供することにより、開発者の認知負荷を大幅に軽減する。従来のコールバックや Promise チェーンによる非同期処理では、処理の流れやエラー処理の追跡が困難になることが多かった。
これに対して、async/await は構文的には同期処理の形式をとるため、制御フローを目で追いやすく、デバッグや保守のしやすさも向上する。非同期処理がコード全体に与える複雑性を抽象化によって緩和し、初心者から上級者まで幅広い開発者にとって扱いやすい設計となっている。
9.2 使用上の注意点と制約事項
async/await の使用にはいくつかの注意点がある。まず、await は必ず async 関数内でしか使用できず、トップレベルでの await は言語仕様や実行環境に依存する。また、await によって逐次実行となるため、非依存な非同期処理を await で連続して書くと、パフォーマンスが低下する場合がある。
さらに、await の使い方次第ではエラーハンドリングが不十分になることもあり、try-catch ブロックを適切に配置することが求められる。これらの特性を理解し、適切な設計を行うことで、async/await の利点を最大限に活用することができる。
9.3 他構文との比較と選択指針
async/await は Promise やコールバックに比べて可読性や保守性に優れているが、すべての非同期処理において最適とは限らない。大量の並列処理を一括で行う場合には Promise.all などの並列実行構文が有効であり、イベント駆動型の処理にはコールバックが依然として使われることがある。
したがって、非同期処理の内容や目的に応じて、async/await を用いるか、それとも他の手法を選ぶかの判断が必要である。async/await は高レベルな抽象構文として極めて有効だが、その背後にあるモデルと限界を理解した上で使用することが、堅牢なプログラム設計には不可欠である。
第10章 まとめと展望
10.1 async/await の本質的構造
本稿で検討したように、async/await は Promise を基盤とした非同期処理を同期的な構文で記述するための抽象機構である。その本質は、コルーチンによる中断と再開、クロージャによる状態保持、状態マシンによる段階的実行制御の組み合わせにある。
この構造によって、従来の非同期制御がもたらしていた複雑性を緩和し、開発者が非同期コードを明快に構築できる環境を提供している。構文上は簡潔でありながら、実行時には高度な制御が隠蔽されている点において、async/await は現代プログラミング言語設計の成功例といえる。
10.2 並行処理モデルとの統合的視点
async/await はスレッドベースの並列処理とは異なり、イベントループと非同期I/Oを利用した協調的な並行処理の枠組みに基づいている。このため、共有メモリに関する排他制御が不要であり、より安全かつスケーラブルな設計が可能となる。
加えて、Promise を軸とした非同期制御構造は、他の並行処理モデル(アクターモデル、goroutine、ファイバー等)との概念的整合性も高く、特にイベントドリブンなアーキテクチャとの親和性が高い。
10.3 今後の技術的発展可能性
async/await の構文は既に多くの言語で採用されており、今後もより高抽象度な非同期制御が求められる場面での拡張が期待される。たとえば、トップレベル await の標準化、型安全な非同期戻り値の保証、トランザクション的非同期制御などが今後の焦点となる。
また、実行時最適化やスタックトレースの明瞭化など、デバッグ性・パフォーマンス両面での改良も継続的に進展していくであろう。async/await は単なる構文糖衣ではなく、非同期プログラミングの設計思想を具体化した機構であり、その理解と適用は今後の開発基盤の重要な一部を成すものである。


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